| どんなアクションがどれだけCO2削減につながるか | 2011/08/23 |
木場弘子さんがいつも持ち歩いている一枚の紙がある。「私のチャレンジ宣言」と題されたA4のシートだ。そこには、どんなアクションがどれだけCO2削減につながるか、具体的な行動とそれに対する削減量が一覧表にまとめてある。
「例えば『冷房の設定温度を26℃から28℃へ2℃高くすると、83グラムのCO2削減になる』など、生活場面ごとに約40項目をリストアップしています。これだと具体的でわかりやすい。4、5年前から講演会などで使っているのですが、皆さん電卓を叩いて『私は600グラム削減!』と大変盛り上がります。家庭や会社へ浸透させるには、こうした具体的な手がかりがポイントなんです」
「私のチャレンジ宣言」は、政府が2005年に立ち上げたCO2削減のためのプロジェクトの一つ。昨年3月に終了し、新たなキャンペーンへと衣替えした。しかし木場さんは、その明快さに大きな意味がある、と活用を続けている。
「広報という視点からいうと、浸透させるには、抽象論ではなく具体論が不可欠。省エネや温暖化ガス削減にしても、人は“腑に落ちて”はじめて動機づけられます。『あ、なるほど!』『そうなんだ』という、気づきですね。それにもう一つ、理由をしっかり説明することも大事。例えば、なぜレジ袋でなくエコバッグがいいのか? そこでレジ袋一枚に約15㏄の石油が使われていること、さらに全国規模になるとどれだけ膨大な量になるか──。そのプロセスを説明すると、皆さん納得されます。今の節電キャンペーンでも、自分の節電行動がどれだけ省エネや環境保全に寄与しているか、実感できるような道筋を立てれば、よりやる気がでると思います」
「消費者や生活者の立場で考える」「抽象論ではなく具体論」をモットーとする木場さん。現在のエネルギー政策をめぐるさまざまな見解に対しても、「消費者にもわかりやすい具体的なモデルやビジョンが欠けているのでは」と指摘する。
例えばエネルギー源についての議論。原子力、化石燃料、太陽、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーの是非が個々に語られている。しかし木場さんは、「どれを選ぶかという二者択一、三者択一の議論になりがちで、供給力やコスト、タイムスケジュール、さらにCO2問題や消費者への影響などが明確には提示されていない」と疑問を呈する。
確かに、日本における再生可能エネルギーの割合は現在約1%程度(水力除く)、これを基幹エネルギーに育成していくには、乗り越えるべきハードルはかなり高い。一方、火力発電にしても資源獲得競争や安定供給への不安のほか、依然としてCO2問題は残ったまま。そうした個々のエネルギー源がもつ特質をきちんと提示し、それを踏まえた上で、中長期視点からエネルギーのパラダイムシフトを描いていく必要がやはりあるだろう。
エネルギー政策を考えるにあたっては、「3つのE」のバランスが重要だといわれる。「経済成長(Economy Growth)」「環境保全(Environmental Protection)」「エネルギーの安定供給(Energy Security)」の三つだ。震災以降、ともすれば議論は一方向へ偏りがちだが、国民への理解促進という面では、よりバランスのとれたエネルギー論議が望ましい。これについては、誰しも異論のないはずだ。
さらに木場さんは「日本のエネルギー自給率は約4%。原油、天然ガス、石炭、ウランなど、エネルギー源(一次エネルギー)の大半を海外からの輸入に頼っています。その基本認識からスタートすると、何を選ぶかという議論より、『できる限りのことにトライしてみよう』という方がいいのではないか」と提案する。
「私が講演会で自給率4%のお話をするときに、よく例示するのは温水洗浄便座の電力使用量なんです。というのも一世帯当たりの月平均電力使用量のうち、ちょうど約4%に該当するのが温水洗浄便座。つまり日本という国を家庭にたとえ、自給エネルギーに限れば、温水洗浄便座以外の家電は使えない計算になる。計画停電や節電などを契機にエネルギー問題に関心が集まるようになった今こそ、国民レベルでこうした議論をいっそう活発に行うことが望まれます。それを後押しすべく、私自身もより積極的に情報発信していきたいですね」
木場さんは千葉大学教育学部の特命教授として、定期的に学生の指導にあたっている。そこで必ず時間枠を確保し、注力しているのが環境やエネルギーをテーマとした講義だ。「環境問題は次世代問題」と語る木場さん。数年後に子供たちと向き合う“未来の教員”へ向け、エネルギー需給の基本構造から温暖化ガスの問題まで、ていねいに解説している。
このほか、「早いうちから環境問題に目を向けてもらいたい」と、小学校での本の読み聞かせにも参加。一人ひとりの小さな行動が自然環境とどう関連しているのか、動物などの生態系の変化をテーマに、噛み砕いて伝えている。
「加えて私たちにできるのは、やはり省エネです。まずエネルギー使用量の分母を減らさないといけない。といって、何でも我慢すればいいというものでもありません。無理を強いるものは長続きしません。街から電飾が消え、オフィスの照明も落ちている現在、改めて『豊さとは何か』を考える。生活者として何が必要で何がいらないか、その兼ね合いを決めていく。つまりライフスタイルの再構築が求められているのです」
そんな木場さんが注目しているのが、エネルギーに関する新技術の進展だ。化石燃料の高度利用や世界最先端の次世代型送配電ネットワークなど、環境調和的な供給システムへの具体的な取り組みはいろいろあるが、なかでも家庭周りのエネルギー技術への関心は高いという。
「いずれにしても分散型エネルギーの活用は、今後ますます重要なテーマになってくるでしょう。また家一軒で考えても、近年はトータルでCO2を排出しないというものも出てきています。さらに省エネを超えてエネルギーを創出する方向へも進んでいる。エネルギーを『使う』だけでなく、『創る』『貯める』というスタイル。こうしたテクノロジーの普及が進めば、温暖化対策はもとより、日本の産業全体の活性化にもつながっていくのではないでしょうか」
日々の暮らしを通して、日本型のエネルギーシフトを着実に進めていく。省エネ・省CO2は、私たち一人ひとりの具体的なアクション抜きには語れない。 「ともかく具体的に動いてごらん 具体的に動けば 具体的な答が出るから」(相田みつを)。木場さんのお気に入りの言葉の一つである。
引用元URL: http://www.president.co.jp/pre/adrequest/pa1082/special/
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