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第5回 パソコン業界 vs 携帯電話業界

 スマートフォンを含めた携帯電話系(通信業界系)メーカーとこれまでのパソコン系メーカーは、違う市場、異なるエコシステムによって並存してきたが、技術の発展はその二つの分野の境界をなくし始め、それに併せてメーカーも動き始めた。もちろん、そのきっかけを作ったのはスマートフォンであり、その動きを加速させているのがタブレットである。

 タブレットは「スマートフォン以上ネットブック以下」というように位置づけられるが、この位置はこれまで空白地帯であったとともに、携帯電話系とパソコン系の“緩衝地帯”ともいえる場所だった。今、この緩衝地帯に多くのセットメーカーが参入し始めている。その背後では多くの半導体メーカーやソフトウエアメーカー、通信事業者といったプレーヤーが動いている。

タブレットを挟み携帯電話系とパソコン系が急接近

 搭載するプロセッサの側面から見ると、スマートフォンはARM系のSoCが普及している。そしてiPadやAndroid搭載タブレットはスマートフォン側から派生してきたものであり、その経緯からスマートフォンと同じARM系SoCを採用している。これに対してパソコン系ではx86系のプロセッサが普及しているのはこれまでの回で解説したきた通りだ。この両者の動きをもう少し具体的に見ていこう。

 パソコン系からスマートフォンへの参入を図るメーカーとして米Intelは外せない。同社の「Moorestown」(Atom Z600シリーズ)と同社が関与する「Moblin」(LinuxベースのOS)はその代表的な事例だ。Intelは2010年に、携帯電話大手でかつ携帯電話用オペレーティングシステム(OS)のSymbianを保有するフィンランドNokiaと提携。Nokiaの技術(Maemoプロジェクト)と併せて、Moblinを新たに「MeeGo」(オープンソースのソフトウエアプラットフォーム)に衣替えし、Nokiaからスマートフォンの販売を予定していた。

 ただ、ことはそれほどすんなりとは進まない。Intelと並ぶパソコン業界を代表する企業である米Microsoftは、もともとWindows Mobileでスマートフォン市場への参入に先行はしていた。だがiPhoneやAndroidの追撃を受けシェアを失う。その挽回のためにWindows Phone 7を投入する。

 そしてMicrosoftは2011年にNokiaと提携し、NokiaはWindows Phone 7の採用を決める。ただ一方で、こうしたMicrosoftとNokiaの急接近によって、IntelはMoorestownでのスマートフォン市場への参入の足がかりを失うことにもなってしまい、戦略の再構築が必要となった。パソコン業界も一枚岩ではないということだ。

 さらにMicrosoftは、次期WindowsでARM系プロセッサへの対応を発表しており、タブレット向けのインタフェースを搭載することもあきらかにした。このタブレット向けのインタフェースは、「Metro」と呼ばれ、Windows Phone 7用に開発されたユーザーインタフェースである。

 こうしたプレーヤーの動きをみると、単純な対立構造というよりも、二つの業界は混ざり合いつつ、あるところではぶつかり合い、あるところでは同じ方向に流れるといった状態になっていることが分かる。そして携帯、パソコンのどちらの業界からも取り組みやすい距離にある「スマートフォン以上ネットブック以下」の位置づけタブレットが登場したことで、各社の動きがよりはっきり見えてきたのが現在の状況だ。以下ではこの特集のテーマであるプロセッサについて、IntelのAtomとARM系の違いなどを見て、この特集を締めくくりたい。

IntelのAtomプロセッサとARMの性能

 IntelのAtomプロセッサはタブレットやスマートフォン、ネットブックなど多くの機器をターゲットにしたプロセッサである。もともとLPIA(Low Power Intel Architechture)と呼ばれており、x86コードを低消費電力で実行する新しいアーキテクチャのプロセッサとして開発された。

 現行のパソコン向けプロセッサである「Core i7」などとは違い、アウトオブオーダー機構は搭載せずインオーダーとし、二つの実行パイプを持つ。SMT(Simultaneous Multithreading)により二つのプログラム(スレッド)を同時実行する。このAtomが作られた目的の一つに、ARM系プロセッサが席巻するスマートフォン/タブレット市場への進出があったと考えられている。

 第3回でも少しふれたが、IntelはARM系アーキテクチャであるXscaleを保有していた。それを売却したのが2006年である。だが、それに先立ってLPIAの構想を含むHandTopというコンセプトを2005年には発表していた。つまり、Xscaleを売却したのは、LPIAを携帯電話市場に売り込むときには、Xscaleが競合すると分かっていたからである。

 このAtomとARM系プロセッサの性能はどのようになっているのだろうか。先にはっきりさせておくが、モバイル機器の場合、消費電力が重視されるため、たとえ高性能であっても、消費電力の大きなプロセッサは採用できない。

 性能を測る一つの指標にDMIPS値がある。これは、ドライストーンと呼ばれるプログラムを実行するときの性能で、通常は、かつて広く使われた旧米Digital Equipment(DEC)のVAXというコンピュータとの性能比で示す。これをクロック周波数で割った値は、クロックあたりの性能を示す。モバイル製品では、同じプロセッサでも製品によってクロック周波数が違うこともあるし、また電力制御のためにクロック周波数を可変で使う。このためクロック1MHzあたりの性能を示す「DMIPS/MHz」値は、モバイル利用の多いARM系でCPU性能を示すために使われる。

 現在広く使われているCortex-A9プロセッサでは、2.5DMIPS/MHzとされており、その前世代のプロセッサとなるA8では、2.0DMIPS/MHzであった。IntelはDMIPS/MHzを公表していないが、さまざまなサイトなどでドライストーンベンチマークの値が測定されており、それによると現在の製造プロセス45nmで作られているBonnell(Atomプロセッサの内部コアアーキテクチャの名称)では、2.4~2.5DMIPS/MHz程度との結果が出ているようだ。つまり、この指標で比較すると、45nmプロセスのAtomプロセッサとCortex-A9は、処理性能の点では互角といえそうだ。

 Intelは、このBonnellをしばらく使い続ける代わりにプロセスを32nm、22nmと微細化させていくという。Intelの資料によれば、45nmと32nmのプロセスの場合、同じ性能ではリーク電流が10分の1、同等のリーク電流だと性能は25%アップするとしている(写真1)。

写真1●プロセスの進化で性能がアップ
45nmから32nmプロセスへの移行では、同じ性能ならリーク電流が10分の1に、同程度のリーク電流であれば、性能が25%アップするという(Intelの資料より)。
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 つまり、同程度の消費電力なら25%クロックを高くできるようになるわけだ。Intelは設計を維持し、プロセスを変えていくことで、同等の消費電力でより高いクロック(より高い性能)を実現する方向で進化させていく戦略である(写真2)。

写真2●アーキテクチャは変えずに製造プロセスを移行
現在45nmプロセスで製造しているAtomプロセッサを32nm、22nmへと順次移行させていくとする。自社で最先端プロセスを利用できるIntelならでは戦略といえる(Intelの資料より)。
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 ただIntelは、22nmプロセスをもう少し先で導入する予定だった。Intelは、最先端のプロセスの導入は主力製品であるパソコン向けプロセッサを優先するためだ。しかし、Moorestownでの導入がうまくいかず、ARM系プロセッサの性能向上も著しいことから、急遽22nmを前倒しで導入することにしたのである。

ARM系はアーキテクチャを変えてPCの領域をも狙う

 これに対してARM系は、Cortex-A8でスーパースカラー構造を導入し、A9ではアウトオブオーダー機構を入れた。さらに次世代のA15では、スーパースカラーを強化して同時処理可能な命令数を増やすという。つまり、アーキテクチャを変えてクロックあたりに実行可能な命令数を上げていくという戦略を選んでいる。

 ARMは、次世代のCortex-A15で、これまでのモバイルや家電といった分野だけでなく、もう少し高度な領域を狙う。Windows 8のARM版が登場すれば、Intelがこれまで占めてきたパソコン系のマーケットへの参入が可能となる。さらにARMはホームサーバーなどの分野も想定しているようだ。ARM系プロセッサはブロードバンドルーターなどで既に使われている。その性能を向上させて、サーバーという形でユーザーに見える機能を提供すれば、消費者に対して「存在感」高めることができる。Intelのモバイル領域への参入に対して、ARMはパソコンの領域への参入を試みるわけだ。

 来年には、ARMを搭載したタブレットにWindowsが載りOfficeが動く可能性がある。そしてアプリケーションは、バイナリーのプログラムからHTML5およびJavaScriptを使うWeb系アプリケーションやクラウドサービスに移行していくという流れも見えている。企業内のクライアントも、こうした流れに合わせて変わっていくだろう。





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